フローラル・フローラブ

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ネタバレ多少あり

ブランド:SAGA PLANETS

  • シナリオ:9
  • キャラクター:7
  • 作画・BGM:7
  • オリジナリティ:9

(PS4版プレイ)

全体の感想

まず第一に,ボリュームがすごい.プロローグだけで一本の作品になるくらいですね.

シナリオのボリュームが多いと途中で読むのを飽きてしまいがちなのですが,ところどころに「謎」が散りばめられており,それの答えを知りたくて次々に読み進めてしまいます.このあたりはシナリオライターの力量が試されるところだとは思いますが,上手くいった作品なのではないでしょうか.

私はこの作品のテーマは「愛」だと感じました.愛と言っても恋愛感情的なものではなくて,キリスト教的な隣人愛というべきものでしょうか.そもそもこの作品がキリスト教系の学校を舞台にしており,ところどころ聖書の話だったり思想が登場するわけですが,それだけでなく,ストーリーの根幹にキリスト教的な思想があるのだとは感じました.

主人公の斉須柾鷹はその自身の複雑な生い立ちから,生きる意味を問い続けています.過去に大きな罪を犯し,それを背負い続けて生きている柾鷹にとって,果たして自身に生きる意味があるのか.生きる意味に懐疑的だった柾鷹は,ヒロインや様々な人と関わる中で段々と考えも変わってくるわけです.

ストーリーが進むにつれ,柾鷹が生きながらえているのは様々な人の愛があったおかげだということがわかってきます.隣人の愛が無ければ自身は生きていなかったことを悟り,柾鷹は次第に人を愛すること,そして赦すことを知ります.

こんな感じで,一つのテーマが決まっている作品というのは結構好みですね.ストーリーに深みが出るし,人の行動原理にも裏付けがされます.普通に考えれば,この作品はお人好しばかりで不自然なところがありますからね.キリスト教的に考えれば自然になるわけです.まあ,私が単純に哲学とか宗教が好きというのがありますが.

ストーリー以外の注目点としては,まずはOPですね.fripsideの曲は外れがないです.

作画に関してもいいですね.ほんたにかなえさんは好きなイラストレーターの一人です.やはり女性のイラストレーターは塗りが良い傾向にあります.ただし制服のデザインは謎ですね.

キャラクターは正直特筆して抜きん出ているということはなく,良くも悪くも無難に収まっている感じです.しかしこのあたりの塩梅は難しく,キャラクターの個性を強くするとストーリーに影響が出てきますからね.だいたいのシナリオ重視のゲームはキャラクターのインパクトは無いように思うので,仕方ないところです.

キャラクター

  • 美鳩 夏乃
    序盤から柾鷹への好意全開といった,あまりこの手のゲームでは見ないタイプではあります.というのは最初から好意があったら,付き合うとなったときの盛り上がりに欠けるからだろうと思います.
    しかし,この好意というのは見返りを求めない隣人愛だったわけです.長いシリアスパートを抜けて,漸くハッピーエンドかと思ったその後の衝撃のエピローグ.人を選ぶとは思いますが,私はこのエピローグで夏乃が一番好きになりました.
    私は夏乃を一番最初に攻略したので,他のヒロインの攻略がしたくなくなりましたね.
    キャラクターデザインも良く,ストーリー的に正真正銘のメインヒロインであるのに,日常パートが少ないために損をしているキャラクターだと感じました.この手のゲームをする人は日常パートが楽しみになっている人も多いですからね.
  • 朱鷺坂 七緒
    夏乃と比べたらかなりシリアスなシーンが少なく,その分日常パートが多めだと感じました.多分キャラクターの人気でいったらヒロインの中でトップではないでしょうか.
    ツンデレキャラは付き合うときの盛り上がりも大きく,付き合った後のストーリーもそのギャップがあるために完成度が高くなりがちです.
    欠点を言えば,このようなツンデレキャラは他の作品にも多く見られるため,他作品のキャラと比較すると埋もれてしまうところはあるかと思います.
  • アーデルハイト・フォン・ベルクシュトラーセ
    こちらも夏乃と比べるとしっかりと日常パートが描かれているとは思いましたが,何分設定が非常に独特なキャラクターなので,好みは分かれるところでしょう.怠惰キャラというのは他の作品にも多いですが,本来設定上怠惰であってはならないキャラクターなわけで,そのギャップが特徴の一つだとは思います.
    キャラクターデザインは一番良くできていると思います.わずかな表情の差を見事に描き分けているところもあり,イラストレーターの力が発揮されているキャラクターです.
  • 椿姫 こはね
    一つ年上の先輩という立場で,母性の塊のような優しさもあれば,女性らしい脆いところもあるという,良い意味で普通の女の子といったキャラクターです.
    修道院育ちで教会に仕える身ということもあり,隣人愛や,人を赦すというキリスト教的テーマが顕著に表れているルートだと言えます.
    ただ前述したように,やはりこはね自身のキャラクター性は乏しいため,その点はもったいない限りです.
  • 碧衣 愁
    シスターとの禁断の恋ということで,あまり他には無いような関係性というところは斬新ですが,このルートだけ所謂キャラゲーのような雰囲気ですね.
    愁自体のキャラクター性は申し分ないはずなのですが,完全にサブヒロインという扱いになっているため,シナリオも正直言って単調なものでした.
  • 斉須 莉玖
    謎の存在である莉玖ですが,このルートがいわゆるTRUE ENDということになっています.ただし,あくまで可能性の一つだという言い方が作品内ではされています.
    莉玖自体はサブヒロイン的扱いですが,物語の核心に迫るストーリーであり,そこそこのボリュームもあります.キャラクター自体は別段悪いわけではないのですが,正直ビジュアル面では他のヒロインより劣っていると感じざるを得ません.
    かわいい一面がある一方で,やはり人間離れした存在だという,このあたりの特徴をもっと全面に出せればキャラクターの良さを引き出せたのではないでしょうか.

個人的な話

やはり夏乃が一番お気に入りですね.ただもう一度プレイしたいかと言うと,シリアスシーンが多く,また長いのもあって遠慮はしたいところです.

作画,BGM,キャラクターのどれをとっても高い水準で,またテーマ性のあるストーリーは斬新なものでした.

結局一番特徴的なキャラクターが主人公の柾鷹だというのは,多分満場一致なんじゃないでしょうか.

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